

■2026年度 福祉系小論文問題
1) 問題文
現代社会における高齢化の進展は、労働力の不足、医療費の増加、社会保障制度の維持など、さまざまな課題をもたらしています。特に、介護の負担が社会全体で増加している現状においては、介護に従事する人々への支援が重要となっています。介護現場では慢性的な人手不足や過重労働が問題となっており、介護職員の離職率が高いことも課題です。こうした状況は、介護職員だけでなく、介護を受ける高齢者にも影響を与えています。
この問題に対して、政府はさまざまな施策を講じていますが、例えば、賃金の引き上げや労働環境の改善といった「労働条件の改善策」に加え、外国人労働者の受け入れ拡大も検討されています。しかし、外国人労働者に依存することで、言語や文化の違いがもたらすコミュニケーションの難しさや、ケアの質の低下を懸念する声もあります。また、家族や地域社会が積極的に支え合う「コミュニティケア」への期待も高まっています。
このように、高齢者福祉の向上にはさまざまな課題とアプローチがある中で、労働力の確保だけでなく、介護サービスの質の維持・向上も同時に求められているのです。
設問
- 筆者の主張を300字以内でまとめてください。
- 介護の現場で労働力の確保と介護サービスの質を維持・向上させるために、どのような施策が有効だと思うか、あなたの考えを400字程度で述べてください。
2) 問題文
少子高齢化が進む日本において、障がい者の社会参加は依然として大きな課題です。障がいを持つ人々が地域社会で生活し、経済的にも自立するためには、社会全体が彼らの多様なニーズに対応できる環境を整えることが重要です。例えば、バリアフリー化の促進や障がい者雇用の拡充といった取り組みがその一環とされていますが、まだ十分ではありません。さらに、多くの企業が障がい者の雇用義務を果たすだけにとどまり、実際に働きやすい職場環境を提供するところは少ないのが現状です。
このような状況に対し、障がい者が生き生きと働き、社会の一員として認められるためには、企業側だけでなく、社会全体が「インクルージョン」の考え方を持ち、支援を広げていく必要があります。そのためには、雇用環境の改善だけでなく、学校や家庭でもインクルージョン教育を進め、障がい者への理解を深めることが求められるでしょう。
設問
- 筆者の主張を300字以内でまとめてください。
- 障がい者の社会参加と自立を促進するために、社会全体でどのような取り組みが必要だと考えるか、あなたの意見を400字程度で述べてください。
3) 問題文
日本の総務省の統計によれば、2023年時点で日本の65歳以上の高齢者は全人口の約30%を占めており、今後も高齢化の進行が見込まれている。さらに、厚生労働省の推計では、2040年には75歳以上の人口が65歳以上の約半数に達し、介護の需要が急増すると予測される。しかし、同時に介護業界の人材不足が深刻化しており、現在でも介護職の有効求人倍率は4倍を超えている。こうした現状に対して、「今後の高齢者福祉には社会的な孤立を防ぐための対策を重視し、地域や社会全体で支える仕組みが必要である」と主張する人もいる。
ここでは、医療や介護サービスの向上のみならず、高齢者が主体的に社会参加できる機会を提供することの重要性を強調したい。たとえば、地域コミュニティの活性化や、高齢者向けの職業支援、ボランティア活動への参加促進、さらにはデジタル技術を活用した見守りシステムなど、多様な方法で高齢者が社会と関わり続けるための環境を整えることが不可欠である。
また、高齢者福祉を支えるためには、行政のみならず地域住民や企業も積極的に参加する必要があり、社会全体で負担を分担する必要性がある。このような支援策が整わないまま高齢化が進行すると、社会的・経済的な負担が急増し、介護崩壊や福祉サービスの質低下が起こる危険性があると警鐘を鳴らす専門家も多い。
設問
筆者の主張を踏まえたうえで、あなたはどのような高齢者福祉の在り方が望ましいと考えますか。また、高齢者が「主体的な社会参加」を実現するためには、どのような施策が効果的だと考えますか。具体的な例や方法を挙げて、あなたの意見を800字以内で述べなさい。
4) 問題文
厚生労働省の調査によれば、現在、日本では約7人に1人が「相対的貧困」に分類されており、特にひとり親家庭や若年層における貧困問題が深刻化している。相対的貧困とは、国全体の生活水準と比較して生活が困難な状態を指し、所得が全体の中央値の半分に満たない層が該当する。この貧困状態がもたらす影響は深刻であり、教育の格差や健康格差の拡大、さらには就職や社会参加の機会が限られるなど、多方面にわたって社会全体に大きな影響を及ぼしている。
こうした貧困問題を解決するためには、生活保護制度や就労支援だけでなく、教育や住居支援、子どもの発達支援など、包括的な福祉政策が必要である。たとえば、子ども食堂や無料学習支援といった地域のサポートを充実させることで、家庭環境にかかわらず子どもたちが基本的な学びや食事にアクセスできる環境を整えるべきである。また、筆者は貧困の再生産を防ぐためには、経済的な支援だけでなく、地域や企業、行政が連携して支援の輪を広げることが重要であるともいえる。
設問
筆者の主張を踏まえた上で、あなたは貧困に対する福祉政策としてどのような施策が効果的だと考えますか。また、貧困の再生産を防ぐために、福祉制度以外にどのような取り組みが社会全体で必要だと思いますか。具体的な例や方法を挙げて、あなたの意見を述べなさい。
5) 問題文
日本をはじめとするG7各国では、高齢者人口が増加し、就労人口が減少する傾向が見られます。添付のグラフを参考にして、以下の問いに答えなさい。
設問
以下の三つの指示を踏まえて800字〜1000字の小論文を書きなさい。
指示
- グラフから見られる日本の高齢化と就労人口の推移について、他のG7各国と比較し、どのような特徴があるかを述べなさい。
- 日本において、急速な高齢化が社会福祉制度に及ぼす影響をどのように考えるか、あなたの見解を示しなさい。
- 日本の社会福祉制度が持続可能であるために、どのような対策や改善が必要だと思いますか。具体的な提案を挙げて説明しなさい。
6) 問題文
以下の棒グラフを参考に、アメリカ合衆国、日本、スウェーデンの税率と福祉予算の比較から、それぞれの国が持つ社会福祉へのアプローチについて論じなさい。各国の税制と福祉支出の特徴を踏まえ、あなたの意見を述べなさい。また、どのモデルが将来的に持続可能であるか、あなたの考えを具体的な理由とともに800字〜1000字で説明しなさい。
指示
- 以下のグラフに示されている「最高所得税率」と「GDPに対する福祉予算比率」を基に、各国の政策方針について分析してください。
- アメリカ、日本、スウェーデンの福祉の特徴について述べ、税負担と福祉の充実度のバランスについて考察してください。
- 最後に、自身の考える理想的な社会福祉モデルを提示し、その理由を述べてください。
■2026年度 福祉系小論文解答・解説
1) 解答例
- 筆者の主張を300字以内でまとめてください。
現代の高齢化社会において、介護の担い手不足や労働環境の厳しさが大きな課題となっている。介護職員の離職率が高く、介護を受ける高齢者にも影響を与えている。政府は賃金引き上げや労働環境改善といった施策や外国人労働者の受け入れ拡大を検討しているが、外国人労働者依存にはコミュニケーションやケアの質低下への懸念がある。また、家族や地域社会が支え合うコミュニティケアの重要性も高まっている。これらの状況から、労働力の確保と介護サービスの質の維持・向上が同時に求められている。
- 介護の現場で労働力の確保と介護サービスの質を維持・向上させるために、どのような施策が有効だと思うか、あなたの考えを400字程度で述べてください。
介護現場で労働力を確保しながらサービスの質を維持・向上させるためには、まず介護職の魅力を高めることが重要だと考える。賃金や労働時間の見直しに加え、職員のスキル向上やキャリアパスの明確化が、やりがいや誇りを持たせる要素になる。また、現場におけるAIやロボット技術の活用も労働負担を軽減する手段となり得る。次に、地域社会やボランティアによる支援体制の強化も不可欠である。地域の福祉活動を推進し、高齢者と住民の交流を図ることで、介護に対する住民の理解と支援意識が高まり、コミュニティ全体で高齢者を支える体制が整う。外国人労働者の受け入れも一案だが、異文化理解のための研修を行い、文化の違いが質に影響を与えないよう努めることが必要である。
2) 解答例
- 筆者の主張を300字以内でまとめてください。
少子高齢化が進む日本では、障がい者の社会参加と自立が重要な課題となっている。障がい者が地域で経済的に自立するためには、バリアフリー化や障がい者雇用の拡充などが不可欠だが、現状では多くの企業が雇用義務を果たすにとどまり、働きやすい職場環境が十分に整っていない。また、社会全体がインクルージョンの理念を持ち、企業だけでなく学校や家庭でもインクルージョン教育を進め、障がい者に対する理解と支援を広げていくことが求められている。
- 障がい者の社会参加と自立を促進するために、社会全体でどのような取り組みが必要だと考えるか、あなたの意見を400字程度で述べてください。
障がい者の社会参加と自立を促進するためには、まず「職場環境の改善」と「インクルージョン教育の推進」が重要だと考える。企業は単に障がい者を雇用するだけでなく、職場のバリアフリー化や、各自の能力に合わせた業務設計、職場でのサポート体制を充実させることが必要だ。また、インクルージョン教育を学校や家庭で進め、障がいに対する理解を子どものうちから深めることも大切である。さらに、地域社会や企業が連携し、障がい者を支える「地域支援ネットワーク」を構築することで、社会全体での受け入れ態勢を整えることができるだろう。これにより、障がい者が働きやすい環境を提供するだけでなく、共に生きる社会意識が広がり、持続可能な社会参加の基盤が築かれると考える。
3) 解答例
現在、日本では総人口の約30%が65歳以上の高齢者であり、2040年には75歳以上の人口が65歳以上の約半数に達すると推計される。この状況を踏まえ、筆者が述べているように、高齢者が社会とつながりを持ちながら生活できる環境の整備は急務であり、医療・介護サービスの充実だけでなく、高齢者の社会的な孤立を防ぐための支援が必要である。
まず、高齢者の主体的な社会参加を促進するために、地域コミュニティの再生が求められる。たとえば、自治体が高齢者向けの交流スペースを提供し、定期的に地域活動や趣味のサークルを支援することで、高齢者が地域社会と繋がりを持つ機会が増えるといえる。また、シニア世代の労働意欲を生かすために、職業支援やボランティア活動の機会を広げることも有効である。たとえば、介護施設や学校での見守り活動など、簡易な作業から専門的な知識を活かせる職務まで、様々な選択肢を提供することで、高齢者の意欲やスキルを社会に還元することができる。これにより、高齢者自身が地域貢献を通じて生きがいを感じることができ、社会全体にとってもメリットが生まれると考えられる。
さらに、デジタル技術の活用も重要である。特に、高齢者がスマートフォンやタブレットを活用して遠隔で家族や地域の人々と繋がる機会を増やすことで、物理的な距離が障害となる社会的孤立を防ぐことができる。たとえば、地域の行政やNPOがデジタル機器の操作をサポートする講習会を開催し、高齢者が技術に触れやすくなる支援を行うことが一助となるでしょう。また、見守りシステムの導入により、孤立死や緊急時の対応がしやすくなるため、安心して生活できる環境の構築にも寄与すると考えます。
筆者が指摘するように、今後の高齢者福祉は行政だけに依存するのではなく、企業や地域住民が連携して支えていくべきである。企業のボランティア活動や地元住民の参加を促す施策として、地域住民と企業が共同で参加できる「福祉ボランティアフェア」を開催するなど、社会全体で高齢者を支援する体制づくりが必要だと考えられる。これにより、社会のあらゆる層が連携し、支え合う関係が築かれる。
このように、高齢者福祉には医療や介護に加え、地域社会とのつながりや主体的な社会参加の機会が不可欠であり、多様な施策によって高齢者が活躍できる社会を実現することが重要である。(961字)
4) 解答例
日本では、約7人に1人が相対的貧困状態にあり、特にひとり親家庭や若年層において貧困が顕著である。貧困は教育や健康、就職機会にまで影響を及ぼし、筆者が主張するように、包括的な福祉政策が必要であり、生活保護や就労支援だけではなく、教育・住居支援、地域の支えなど、多面的なアプローチが求められている。
まず、効果的な施策としては、子どもや若年層への教育支援が挙げられる。貧困家庭の子どもが平等な教育機会を得るために、無料学習支援や奨学金の充実が重要となる。特に、経済的に厳しい家庭の子どもには、学習環境の格差が将来的な就労や収入に影響を及ぼすため、教育支援が不可欠である。たとえば、地域ごとに「子ども食堂」や「無料塾」を設置し、栄養面や学習支援を行うことで、家庭の事情にかかわらず子どもたちが安心して学べる環境を整えることができる。
また、筆者が述べるように貧困の再生産を防ぐためには、福祉政策以外の支援体制も必要である。そのために、企業や地域が一体となって、職業訓練や就労支援を行うことが一つの方法であり、たとえば、若年層に対するインターンシップやスキルアッププログラムを提供することで、学び直しや就労機会を支えることができだろう。さらに、低所得家庭向けの住居支援や家賃補助制度を拡充することにより、安心して住まいを確保できるようになる。
貧困は経済的な問題であると同時に、社会全体の支えが不可欠な問題でもあり、地域社会や企業、行政が連携し、支援の輪を広げていくことで、貧困家庭の子どもたちが将来に希望を持ち、自立して生活できるようにしなければならない。
このように、貧困の課題に対する福祉政策には、生活保護や就労支援にとどまらず、教育・住居・地域支援といった包括的な取り組みが必要であり、社会全体で連携した支援体制が貧困の再生産防止に有効であると考えられる。(772字)
5) ヒント
- グラフから見られる日本の高齢化と就労人口の推移について、他のG7各国と比較し、どのような特徴があるかを述べなさい。
日本がG7諸国の中で特に高い高齢者割合を示している点や、就労人口が急速に減少している点を指摘し、他国との違いを明確に述べます。
- 日本において、急速な高齢化が社会福祉制度に及ぼす影響をどのように考えるか、あなたの見解を示しなさい。
急速な高齢化が引き起こす課題として、医療・介護費用の増加、年金制度の維持困難、労働力不足といった社会福祉への影響を考察します。
- 日本の社会福祉制度が持続可能であるために、どのような対策や改善が必要だと思いますか。具体的な提案を挙げて説明しなさい。
対策として、定年延長や外国人労働者の受け入れ、年金制度の見直し、地域による高齢者支援の充実など、具体的な提案を述べ、そのメリットと実現性について論じます。
6) 解説
以下のヒントを参考にしてみてください。
各国の最高所得税率とGDPに対する福祉予算の割合を比較すると、それぞれの国家が社会福祉制度と税制において異なるアプローチを取っていることが明らかになります。ここではアメリカ合衆国、日本、スウェーデンの福祉政策と税制の特徴を分析し、それぞれの国が掲げる社会のあり方について考察します。
- アメリカ合衆国:低税率・低福祉モデル
アメリカは最高税率37%と比較的低い税負担ですが、GDPに対する福祉支出も18%と低い割合です。アメリカは「小さな政府」を理想とし、個人の責任と選択の自由を重視する傾向にあります。このため、医療保険や年金などは多くが民間に委ねられ、自己負担や企業の福利厚生が重要です。結果として、福祉サービスの利用は個人の経済力に依存するため、経済格差が顕在化しやすいという課題があります。しかし、低税率による個人の可処分所得の増加や、企業の活発な投資を促進し、経済成長にはプラスの効果をもたらしています。
- 日本:中税率・中福祉モデル
日本は最高税率45%、GDPに対する福祉支出は23%であり、アメリカとスウェーデンの中間に位置します。日本の社会保障制度は、国民皆保険制度などによってある程度の福祉を保障しつつ、自己負担も一部求める「中福祉・中負担」型です。また、少子高齢化が進行している日本においては、医療や年金の支出が年々増加しているため、税収の確保と福祉サービスの維持のバランスが重要課題となっています。日本では、増税や社会保険料の見直しが進められており、将来的にはさらに高負担となる可能性もあります。
- スウェーデン:高税率・高福祉モデル
スウェーデンは最高税率57%、GDPに対する福祉支出は28%であり、非常に高い福祉支出を維持しています。スウェーデンは「高福祉・高負担」型の国家として知られ、充実した福祉サービスを提供しています。医療、年金、教育、育児支援などが広く保障され、国民は安心して生活できます。しかし、税負担が高いため、経済成長の面では抑制要因となる場合があります。さらに、高福祉には安定した財源が必要であり、社会全体がこの負担を共有する意識が求められます。
- 理想的な社会福祉モデルの提案
以上の分析を踏まえると、各国の福祉政策と税制はそれぞれの文化や経済状況に依存しており、どれが最良であるかは一概に決めることができません。しかし、私が理想と考えるモデルは、日本の「中福祉・中負担」型を基盤としながら、スウェーデンのような包括的な福祉の充実とアメリカの自己責任を組み合わせたバランス型です。特に少子高齢化が進む日本において、社会保障制度の持続性と福祉の充実の両立が求められます。具体的には、効率的な福祉サービスの運用、また個人や企業の福祉参加を促進する政策が理想と考えます。
このように、税負担と福祉の充実度のバランスを慎重に保ちながら、将来世代に負担を先送りしない持続可能な制度が求められています。
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