現在の大学受験制度・・・7
カテゴリー:大学受験2016.09.24
さて、ここまで大学受験の現状をみてきましたが、実は大きな影響力をもっているのが高校です。
たとえば、私立高校と都立高校では大学受験に対するフォローが実に違います。AO入試などは、私立高校の方が格段に力を入れています。ですから合格実績は当然、同レベルの公立高校より良くなります。
しかし、その一方で、私立高校はクラス分けが細かくなされている場合が多く、上位クラスではAOや指定校推薦がとれないことがあります。途中でクラス変更ができないため、指定校推薦がとれず、下のクラスの子の方が良い大学に行った・・・ということは本当によくあることです。
この背後には、合格実績をより良く見せたいという学校のおもわくがあります。上位クラスの生徒には一般で合格をさせ、学力が足りていない生徒に指定校推薦枠を優先させることで、合格者を増やすのです。
都立高校の場合は、指定校推薦が多いのも特徴だと思います。
ですから、単に東大に何名合格したか、早稲田に何名合格したかというのを見るのではなく、どこの大学に最も進学したのか――その場合も合格ではなく進学がポイントです――、合格も一般とAOがどうなのか、指定校推薦枠はどこがあるのかなど、できる限り集められる情報を集めた上で判断される方が、より正確な状況がつかめると思います。
現在の大学受験制度・・・6
カテゴリー:大学受験2016.09.24
このAO入試制度ですが、受験生、大学側双方にメリットがあります。
まず受験生にとっての最大のメリットは逆転合格がしやすいということです。一般受験では偏差値20を逆転されることは至難の業ですが、AOでは頻繁に見られます。
ちなみに、去年映画が大ヒットしたビリギャルですが、彼女が合格したのは慶応大学のSFCという学部なのですが、そこは英語と小論のみです。科目数が少なく、AOに近いといえます。小論は偏差値と関係ありませんから、英語だけでしたら、偏差値40の逆転も難しくありません。その反対に、科目が増えると、平均の偏差値を上げるのが難しくなりますから、その意味で国立の逆転合格の方が大変だということです。
また、部活や好きなことを一所懸命に頑張った人も報われやすいといえるでしょう。合否も年内にでますから、早く解放されるということもメリットとして挙げられます。
大学にとってもメリットがあります。というよりも、ぼくの実感としては、生徒のメリットよりも大学にメリットがあるからこそAOの拡大が図られたのだろうと思います。
有名大学とそうではない大学では事情が異なりますが、早稲田や慶応という有名大学に限っていえば、その最大のメリットは偏差値を上げられることです。
以前に書きましたが、早稲田の政経は一般合格者数を減らしていき、その分センター利用やAOが増えています。
AO合格者は予備校の偏差値に反映されませんから、政経の偏差値は高く保たれます。一般に募集数が増えれば、偏差値が下がっていきますが、これで募集を多くとっても偏差値が下がることはありません。つまり、私立の学校は経営のために生徒数が多い方が良いわけですが、多くなればなるほど偏差値が下がります。AO入試制度は、この悩みを一気に解決してくれるのです。
もちろん、学力差(特に英語は)がありますから、大学のなかでクラスをレベル別にわけて授業を行い、学力差があっても授業の運営に支障をきたさないようにしています。
こうして、難関私立大学は、東大・京大を除く旧帝国大学に比べても高い偏差値が出るという結果になります。もちろん、こうしたカラクリは企業の採用担当者は知った上で、対応しています。
また、優秀な生徒の青田買いというメリットもあるかと思います。
現在の大学受験制度・・・5
カテゴリー:大学受験2016.09.21
大きな変化は子どもの数だけではありません。
日本を取り巻く環境も大きく変わりました。
90年前後は「Japan as number one」と言われ、現在の中国人の「爆買い」を日本人が世界中でしていた時代です。
数年前に、GDP(その国の経済規模)が中国に抜かれ話題になりましたが、現在どれくらいの差があるかご存知でしょうか。
現在の中国のGDPが12兆ドルに届きそうなのに対し、日本のGDPは5兆ドル弱ですので、すでに1/3ほどです。もちろん、中国だけではありません。
その国の経済状況と教育状況はある程度、相関関係があると言われていますが、日本の一人当たりのGDPの順位の推移をみても90年だいは3位、4位だったのが、ここ数年は20位台です。北欧だけではなく、アジアのなかでもマカオ、シンガポール、香港にも抜かれています。
ぼくは、高校時代に親の転勤でニューヨークに行っておりましたが、当時はまだ日本が強く、電化製品の最先端はすべて日本製でした。ただし、すでにマイクロソフトのコンピューターが学校に設置されていたので、時代が変わりつつあったのですが、当時はわかりませんでした。
また、教育界のほうを見ても日本最難関である東京大学、京都大学が世界大学ランキングの順位を下げてきているのは、みなさんもご存知かと思います。つい先日も東大が、アジアで七位だというのがニュースになっていました。
またグローバル化が進むなかで、単なるペーパーテストだけができても、インド人や中国人とやりあっていけないという焦りが産業界からもあがっているのだと思います。
当時は、マレーシアのマハティール首相が、「look East」、「日本を見習え」とありましたが、現在では「日本が見習え!」と変わってきまして、大学も大変革期に突入しております。国立大学の独立行政法人化、大学院の充実化、カリキュラムの見直し・・・とかつてない変化を遂げつつありますが、入試の多様化もその流れのなかで生まれてきました。
現在の大学受験制度・・・4
カテゴリー:大学受験2016.09.21
「ゆとり教育」による学力低下が叫ばれて久しいですが、トップ高校の学力は下がっていませんし、そもそも「ゆとり教育」は公立の話ですから、カリキュラムも変わっていません。大学入試だけに注目すると、むしろこれまで述べてきたような理由から難しくなっているといえるでしょう。
参考書一つをとってみても、インターネット普及に伴って大幅に進歩しました。現在では、無料アプリをはじめとしたツールも無数に存在します。情報が増えるにしたがって、当然対策も向上しますから、その結果として入試も難しくなるのです。
一つ例を挙げておきますと、東大の英語入試で出題される英単語の挙げてみます。2001年ではおよそ3000程度の単語だったのが、2011年では6800にまで増えています。
2000年から約十年で倍になりました。
つまり、成績上位者に学力低下などおこっていないのです。
ただ、成績上位者がいく大学が若干変わり、多様化が進んだように思います。
いくつかの例を挙げてみましょう。
一つは、数年前まで日本一受験者数の多かった早稲田の合格者における関東出身者の割合です。十年前は6割ほどだったのが、昨今では7割5分にまでなっています。これは早稲田に限らず、東大でも慶応でも同じ傾向にあります。関西の京大・阪大・関関同立も同様です。
おそらく、不景気の影響があるのだと思いますが、全国的に「地元志向」が強まっているようです。
代ゼミ20校以上が閉鎖されたのはご記憶に新しいかと思いますが、代ゼミは「浪人して私立文系に行こう」という層に支えられていました。現在では、そういう層が圧倒的に少なくなったのです。
要するに、以前であれば、都会の私立文系に行ったような成績上位者が、地元の国立大学に行こうという流れになったのです。
そしてもう一つの例は医学部を筆頭にした理系志向です。地方を含めた国立大学の医学部の偏差値は大幅に上昇し、現在では地方国立大の医学部の偏差値は東大の理科一類と変わらなくなりました。
また、女子に人気の看護学部は、1991年には全国に11校だったのが、2014年には226校に増えています。
つまり、成績の良い子は、私立文系よりも国立理系・あるいは国家資格に直結した学部に進学する傾向が強まっているといえるのだと思います。
ぼくは、この現象はノーベル賞の授賞者にも表れているような気がします。2000年までの日本人の授賞者はすべて京大と東大を卒業した人でしたが、2000年以降、東工大、名古屋大、神奈川大、徳島大、山梨大、埼玉大と特にここ数年は地方国立卒の人の受賞が急増しました。
優秀さというものが一つの物差しで簡単には計れず、多様化したのだと思います。
現在の大学受験制度・・・3
カテゴリー:大学受験2016.09.17
大雑把にいうと、200万人のうち25%である50万人が大学へ行った時代と、100万人の半分の50万人が大学へ行く時代はともに進学数の違いはありません。
ただし、そこで平均をとると大きな違いがでるのは当然です。四人に一人しかいけなかった時代と二人に一人が行く時代では、学力平均をとれば前者の方が高くなるとは当然です。
ですから、当時との大学生と現在の大学生の平均をとれば昔の方が高いでしょう。
つまり、当時と現在の平均をとって、昔に比べ学力が落ちたというのはおかしいということです。
しかし、母数が減るのだからトップのレベルも下がっているのではないか?という疑問が当然でてくると思います。これに対する答えはスポーツの記録を考えていただくと分かりやすいと思います。
子どもの数は一貫して減っていますが、スポーツの記録は伸びています。それは、研究が進められているからです。
日本の100メートル走の記録をみても、1987年の100メートル走の日本記録は不破くんという人の10秒33ですが、2015年は、桐生くんが9秒87を出しています。つまり、母数が減っても、対策が講じられていれば、記録は伸びるのです。
受験も同様で、傾向と対策は確実に進んでいるため、研究されやすい難関大学は、その分問題が難しくなっています。
現在の大学受験制度・・・2
カテゴリー:大学受験2016.09.17
突然ですが、日本で飼われている犬と猫の総数をご存知ですか。
どちらも1000万匹前後で、合わせて2000万匹です。
一方15歳未満の子どもの数は1600万人です。つまり、現在の日本では子どもの数よりもペットの数の方が多いのです。
そしてこの子どもの数の違いこそが、三十年前と最も際立った違いだと思います。
当時は、一学年およそ200万人でしたが、現在は一学年120万人と約半分になっています。
それに反比例するかのように、大学の数は増えています。1990年はおよそ全国に大学がおよそ500ありましたが、現在では800ちかくもあります。まさに全入時代に突入しました。
その結果、大学進学率が大きく変わりました。90年は25%だった進学率が現在では50%を越えるようになりました。これは全国平均でして、東京では現在、大学進学率が70%を越えています。
では、その分大学に入るのは簡単になったのでしょうか。
「ゆとり教育」による学力低下も叫ばれて久しいので簡単になったように思えます。
実際私立大学は生徒が集まらなければ、経営が成り立ちませんから、何が何でも生徒を獲得しなければなりません。その結果、入試が形だけで誰でも入れるような大学が多く存在しますから、入りやすくなったというのは事実です。
ただし、いわゆる難関大学への入学は簡単になっていないと思います。